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<睡眠>「激しい寝言」を放置すると認知症に?

 寝ぼけることは誰しもあるかもしれませんが、大きな声で怒鳴り散らしたり、文章になるような寝言を大声ではっきりとしゃべったりするなどの症状が表れたら、それは「レム睡眠行動障害」かもしれません。放置すると認知症などの病気に進行する可能性もあります。もし家族にこのような症状が表れた場合、どう対応すればよいのでしょうか。睡眠研究の第一人者、久留米大学の内村直尚教授に聞きました。【毎日新聞医療プレミア】

 以前、あるバラエティー番組の内容を知って驚いたことがあります。番組では「睡眠中の夫の寝ぼけがひどい」と相談した女性の事例が紹介されていたそうです。寝室に設置したカメラで撮影した夫の睡眠中の映像が流れ、スタジオでは出演者の芸能人がそれを見て大笑いしているというものです。しかし、睡眠障害の治療を専門とする私にとっては、これは笑いごとではありませんでした。この方は「レム睡眠行動障害」と呼ばれる重大な睡眠障害の可能性が高いからです。

 ◇睡眠中に激しい寝言や殴る、蹴るの症状

 人は眠りにつくと、脳が休み、体は起きているノンレム睡眠に入り、その後は徐々に脳の一部が覚醒し、体が休むレム睡眠に移行します。この二つの睡眠状態を繰り返すのはよく知られていることです。

 人が主に夢を見るのはレム睡眠中で、これは脳の一部が覚醒しているためです。もっともこの状態では体が休んでいて筋肉が弛緩(しかん)しているので、通常体は動きません。ところが、この時に夢の内容に連動して体が動き、行動してしまう「夢の行動化」が起きる人がごく一部にいます。このような症状を「レム睡眠行動障害」と呼びます。

 この障害は1986年に提唱された新しい概念で、人口の約0.5%にみられ、中高年の男性に多いと報告されています。

 主に大きな声で怒鳴り散らしたり、文章になるような寝言を大声ではっきりとしゃべったりするなどの症状が表れます。さらに、隣にあるものや人を殴る、蹴る、起き上がって歩き出したり走ったりと、やや攻撃的・暴力的な行動が出現します。こうした行動は数分以内に収まることが多いのですが、何かにぶつかるなどの刺激がないと本人が行動の最中に目覚めることはなく、後に目を覚ましても行動の記憶はありません。

 ただし、本人は夢の内容を認識していることが多く、こうした行動は嫌な夢を見る時に起こる傾向にあります。例えばトラに襲われている夢を見ていると、夢の中で本人は真剣にトラと闘ってしまいます。夢の中での行動だったはずのことを実際に行ってしまうのです。闘っている夢を見ている時に隣に家族が寝ていれば、その家族は殴られたり、蹴られたりするので、たまったものではありません。時にはそれで家族がけがをすることさえあります。

 一人暮らしなら他人を傷つけることはないでしょうが、近くにある家具に手足をぶつけて負傷してしまう可能性があります。なかには、手を骨折することもあるほどです。

 ◇原因は不明なことが多い

 レム睡眠行動障害の原因は大半は不明ですが、パーキンソン病などの神経疾患、薬物中毒が原因になっているものもあります。

 診断では、こうした基礎疾患などの有無に加え、この病気のために作られた問診票に本人が記入して回答を点数化し、可能性の高い人を絞り込みます。そのうえで睡眠中の脳波や呼吸、脚、顎(あご)、眼球の運動状況、心電図などを測定する睡眠ポリグラフ検査で状況を評価して確定診断を下します。

 もっとも隣で家族が寝ている場合、確実で簡易な診断方法は、寝言を言ったり、暴れたりした時にその人を起こして夢の内容を聞き、寝言や行動と一致するかどうかをみることです。ただ、この場合、家族はやや注意が必要です。手足をばたばたさせている時などは、少し離れたところに移動し、柄の長いほうきなどで本人の体の一部を軽くツンツンと突くようにして起こすのが望ましいでしょう。覚醒しやすいのがこの病気の特徴です。

 このように言うと、「やや非人道的な扱いではないか」とおしかりを受けそうですが、先ほどお話ししたように、本人が夢の中で何かと闘っている場合に、すぐ脇で体をゆするなどすると、本人はその家族を自分が闘っている相手と思い込んで、殴る蹴るなどの行動に及ぶ危険があるからです。

 ◇生活指導や服薬で症状が改善

 レム睡眠行動障害の症状が見られた場合、まずは患者さん本人のベッドサイドの環境を整えます。家具や窓から離れた場所にベッドを移動し、その他にも本人や家族のけがにつながりそうなものはベッドサイドには置かないようにします。同じ部屋で寝ている家族は、症状が軽快するまで別室で寝てもらうなどの対応も必要になります。

 また、ストレスや飲酒が症状を悪化させることが報告されていますので、こうした日常生活の改善なども指導します。

 そのうえで現実的には薬物治療が主体となります。治療薬では、てんかん治療に用いられるクロナゼパムという薬が約9割の患者さんで有効なことが分かっています。また、その他にも睡眠障害などで用いられるメラトニン、パーキンソン病治療薬のプラミペキソールも有効との報告があります。

 私自身も研究でレム睡眠行動障害の患者さんに対し、メラトニン3mgを1日1回、就寝前に投与したところ、1~2週間で症状が完全になくなるか、頻度が大幅に減少した経験があります。

 ◇放置すると認知症やパーキンソン病に進行する可能性

 一見すると、ベッドサイドの環境を整えて、家族と別に寝ることで解決するのではないかと考える方もいるかもしれませんが、この症状を放置すると重大な病気に進行する可能性があります。

 というのも、レム睡眠行動障害と診断された患者さんでは、後々パーキンソン病やレビー小体型認知症になることが少なくないからです。レム睡眠行動障害を世界で初めて提唱した米ミネソタ大学のカルロス・シェンク氏は、レム睡眠行動障害の患者さんを長期追跡した結果、その症状が出てから12.7年後に4割弱の患者さんがパーキンソン病を発症したと報告しています。

 パーキンソン病は手足が震えたり、体が小刻みに動いたり、バランスがとりにくくなったりする運動障害で、レビー小体型認知症は脳にレビー小体と呼ばれる異常なたんぱく質が蓄積することで神経細胞が死滅し、認知機能が低下するものです。

 現在のところ、レム睡眠行動障害を治療すれば、パーキンソン病やレビー小体型認知症を予防できるかどうかは明らかではありません。ただし、本人や家族がけがをする恐れがあることなども考え合わせれば、治療をした方が望ましいと思います。

 症状を放置し、ましてやその様子を笑いものにするなどあってはならないと考えています。(聞き手=ジャーナリスト・村上和巳)
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